平成の気まぐれ山行記 2001年10月13日作成
中央アルプス・木曽駒ヶ岳&宝剣岳
2001年10月3日
その2
木曽駒ヶ岳山頂より南アルプス(甲斐駒ヶ岳、仙丈岳、白峰三山)遠望
富士山も見ることができる
 確かに、このトラバース・ルートの右側は谷に向かって鋭く切れ落ちており、誤って転落でもしたら、大事故につながりかねない。腕(足?)に自信の無い人は、通常の中岳のピークをたどるルートを選んだほうが無難だ。

 途中には奇妙な形をした岩などが点在しており、僕は久しぶりに花崗岩の感触を両手で味わいながら進んだ。そして、ほどなく浄土平に到着した。まだ、休む時間でもないし、先ほどの嫌な煙もまだ付近に漂っていたので、そのまま宝剣岳への登路を先に進むことにした。

 ここから宝剣岳へ登る登山者は、駒ヶ岳への登山者に比べてグッと少なくなる。ルート中に危険な岩場が多いことがその理由だ。子供連れやハイカーなどは立ち入るべきでない。誤って足でも踏み外せば、そのまま谷底に向かって転落する危険な場所が何ヶ所もある。

 僕は、コースに設置されたクサリにはなるべく触れないように、ワクワクしながら山頂目がけて登っていった。誤解の無きよう申し上げておくが、設置されたクサリが信用できないということではなく、岩登りを経験したことのある人なら大抵そうだが、人工物などに頼って登りたくないという変な自負心からそうしたまでである。

 浄土平から20分ほどで宝剣岳山頂に到着した。山頂といっても、数人が立てる程度の広さだし、のんびり足を延ばすスペースも少ない。僕が到着した時は、5〜6人ほどの登山者が山頂で休んでいた。その中には、大胆にも千畳敷にせり出した大きな岩にまたがって、優雅に写生を楽しむ人達もいた。ここから千畳敷のほうを覗き込むと、その落差で目がくらむほどだ。

 ところで、この宝剣岳山頂には、高さ2メートルほどの岩がひとつ空に向かって突っ立っている。見るからにここが最高点のようだ。僕はこの岩に登ってみることにした。とはいえ、この岩の周囲はスパッと切れ落ちており、足でも滑らせたら、それこそ数百メートル下に転落しかねない。最初は簡単に登れると思ったが、以外や以外、最後の最後でしっかりしたホールド(手がかり)がなく、やっぱり止めておこうかと一瞬躊躇したが、思い直して、最後は手のひらの摩擦だけを頼りに強引によじ登った。岩の上は50cm四方ほどの広さで、ここに立つのはさすがに止めておいた。降りる時は登る時以上に難儀だった。足がスタンス(足場)に届かずにさてどうしたものかと考えたが、最後はいちかばちかで数10cm飛び降りた。そして、直ぐに自分のやっている行為を振り返って、年甲斐もなく馬鹿なことをしたと少々後悔した。その後、眼下に広がる千畳敷の素晴らしい景色を眺めながら、持参したみかんをほおばった。

 さて、そろそろ下山しようかな・・・と準備をしていると、そこに中年の単独行者が登ってきた。そして、彼は頂上に着くなり、先ほど僕が登った岩を指さして、「あそこが頂上か、よし登ってみよう」と誰に言うでもなくつぶやいた。僕は、失礼ながらその風貌からどうみても岩登りの経験があるような方には見えなかったので、「失礼ですが、岩登りのご経験はありますか?」と聞いてみたが、僕の質問には答えてくれず、さっさと岩を目がけて登りだしていた。「ま、良いか」と思ったものの気になったので、「ホールドが無いので危ないですよ。特に降りる時、大変ですから気をつけて下さいね」と言い残して、僕は下山することにした。結局、その人は、自分の技量では無理だということがわかったようで、途中であきらめて降りてきた。

 僕はこのとき、何か自分の姿を鏡に写しているようで、先ほどの自分自身の行為が恥ずかしかった。「昔、岩登りをやっていたからといって良い気になっていると、そのうち痛い目にあうぞ!」と自分に言い聞かせて、極楽平への岩場をいつもより慎重に降りていった。昔、ここに来た時は怖いと感じた記憶はなかったが、今回は結構緊張する場所が幾つかあった。「やはり歳のせいかな?」と、自分に言い聞かせながら、登りでは触れまいと思っていた岩場のクサリにおもいっきり頼りながら下っていった。
木曽駒ヶ岳山頂より、北アルプス槍・穂高連峰を望む
木曽駒ヶ岳山頂より木曽前岳、遠く御岳を望む
手前は頂上木曽小屋
中岳のトラバースルートにある奇岩
※この画像は拡大で見られます。画像上を左クリックして下さい。
中岳のトラバースルートの岩場を進む私
※岩場が多いので慣れない人は頂上経由のほうが無難だ。
※この画像は拡大で見られます。画像上を左クリックして下さい。
宝剣岳の近くにそびえる天狗岩
浄土平から宝剣岳(別名:剣が峰、2933m)への登り
※クサリ場が多く危険なので慣れない人は立ち入らないほうが無難だ。
宝剣岳山頂より千畳敷カールを望む
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