2019年1月15日
ホイールナット考
Vol. 143
Raysの貫通型クロモリ鋼ホイールナット
17HEX M12 x P1.5 L=35mm
 サーキットを走る場合、ブレーキを多用することで、ブレーキローターで発生した熱が、ハブおよびハブボルトを介して、タイヤホイールとホイールナットに伝わる。ここでは、このホイールナットの材質について、考えてみたいと思う。ホイールナットに求められる条件としては、熱膨張率が低いこと、十分な強度(硬さ、引っ張り強度)があること、軽いこと等が上げられる。但し、これらの条件をすべて優位的に満たす材質は無い。従って、安全性を優先すると、前者の2つが重要となり、軽さの優先順位は低くなる。
 通常、ハブボルトは鉄製なので、そこに使うナットも、熱膨張率を考えると、同じ材質である鉄が望ましい。メーカの純正ホイールナットのほとんどが鉄製である所以である。昨今ではアルミやジュラルミン製のナットに、クロムメッキを施したカラフルなナットが多種販売されている。これらの材質の熱膨張率は、鉄に比べ2倍程大きいことに注意されたい。即ち、ハブボルトとナットが同じ温度に上昇したとすると、ナットのほうがより膨張し、緩む方向にあるということだ。即ち、熱膨張率は小さいほうが望ましい。

熱膨張率(単位は10-6/℃)
 チタン: 8.4
 クロムモリブデン(クロモリ)鋼: 11.2
 鉄: 12.1
 ジュラルミン: 23.4
 アルミ合金: 23.6
貫通型HEXナットとロックナット
貫通型のクロモリ鋼ナット
締め付けの確実性、軽量化、放熱性の観点から
お勧めである
 また、材質別の硬さを見てみると、次のようになる。数値が大きいほど硬いことを表す。ホイールナットとしては、鉄と同等以上の硬さが望ましい。

 チタン: 310
 クロムモリブデン(クロモリ)鋼: 269-331
 鉄: 201-269
 ジュラルミン: 155
 アルミ合金: 40-100

 ジュラルミンとアルミ合金ナットは、脱着を幾度も繰り返すと、ネジのピッチが摩耗する傾向にあるので、サーキット走行に限らず、一般用途であっても、脱着回数が多い場合は、定期的に新品に交換する等の工夫が必要であろう。
 重さ(比重)を比較すると以下の通りとなる。単位はg/cm3(20℃)、数値が大きい程、重いことを表す。ホイールナットとしては、もちろん軽いに越したことは無い。

 鉄: 7.8
 クロモリ鋼: 7.8
 チタン: 4.5
 ジュラルミン: 2.8
 アルミ合金: 2.7

 以上をまとめると、サーキット走行で使用するホイールナットは、鉄かクロモリ鋼が望ましい。チタンも良いが、値段はクロモリ鋼の6〜7倍と高価である。これらの材質に限っていえば、ナット経は最小の17HEXで良いと思われる。また、ジュラルミンやアルミ合金のナットは、熱膨張率と硬さ(強度)の観点から、少なくともサーキット走行での使用はお勧めできない。
Rays 貫通型クロモリ鋼 17HEX M12 x P1.5
ロックナット付を 装着した例