Vol. No. 8 2002.01.12 upload
どうして地球の裏側の人とお話できるの?
 以前の章でお話ししましたように、電波は光と同じ電磁波の一種ですので、光がそうであるように電波も障害物が無い限りひたすら直進し、自分から方向を変えて曲がることはありません。だとしたら、球体の地球の裏に電波など届くはずがないということになってしまいます。

■反射
 ここで少し電波の特徴を考えてみましょう。電波は直進するものと言いましたが、電波の進む先に障害物があったとしたらどうなるでしょう。結論から言いますと、図8−1に示すように、電波も光と同じように反射する特徴を持っています。反射とは物質などにぶつかって跳ね返る現象のことです。なお、電波の反射する度合いは、反射する物質や電波の周波数によって異なります。紙、プラスチック、木などは比較的透過しやすく、金属性のものは電波を良く反射します。

■屈折
 また、図8−2で示したように、光が空気中から水の中に入る時、水面に対して斜め方向から入射すると、光の進行方向が曲げられて屈折することは良く知られています。理科の実験などで経験された方もおられると思います。電波でもこの屈折という現象が発生します。

図8-1 反射 図8-2 屈折

■回折
 また、細かな説明は省きますが、電波は回折という現象も引き起こします。回折とは、電波の波が障害物のうしろに回り込んで伝わる現象です。周波数が低いほどこの現象が起きやすい特徴があります。ビルの谷間などでAM放送が聞こえるのはこの現象によるものです。

 さて、今まで説明した電波の特徴だけでは、地球の裏側に電波が届くことにはなりません。電波が地球の裏側に届く為には、地球の上空に電波を反射する物質が必要になります。この鏡の役目をするのが「電離層」です。

■電離層
 電離層とは、太陽からの放射エネルギーを吸収して、地球上空の大気が電離し、電子とイオンに分かれている層のことを言います。と言っても、何のことやら良く判らないという方もいらっしゃるかと思いますので、もう少し詳しく説明します。

 空気中の酸素や窒素などの原子は、正の電荷を持つ原子核のまわりを負の電荷を持つ電子が回っています(図8-3参照)。この原子に太陽からの強い紫外線などがあたると、外側の電子は吹き飛ばされて、原子核から離れ自由に動くことのできる電子になります。このように電子が原子核から離されることを「電離」といい、電離した電子が層を成しているのが電離層です。

図8-3 原子の構造

 私達の家庭に電気が送られてきていますが、送るのには電線が使われています。電線で電気が送れるということは、電線の中を電子が自由に飛び交っているということです。電離層もこれと同じで、原子核から切り離された多くの電子が電波を反射する役目を果たしているという訳です。

 図8−4に電離層の様子を示します。電離層はおおざっぱにみると、E層とF層という2つの代表的な層から成り立っています。E層は地上約100km付近に、F層は地上約200〜400km付近にあります。電波のすべてがこれらの層で反射する訳ではなく、周波数によりその様子は異なります。短波(3〜30MHz)はF層に反射して地表との反射を繰り返しながら地球の裏側まで伝わっていく性質があります。中波(300kHz〜3MHz)はE層に反射して、地球の裏側にまで届くことはありませんが、遠距離まで伝わります。

図8-4 電離層の図(模型的)

 また、この電離層は波長の長い電波は反射し、波長の短い電波は通過させる特徴があります。電離層を通過できる電波の周波数は、おおよそですが、30MHz〜30GHz(波長で10m〜1cm)の範囲です。この電離層を通過できる周波数範囲は、「電波の窓」と言われています。このことは宇宙から地球に届く電波についても同じであり、私達は電波の窓を通過した宇宙からの電波のみを受信することができるという訳です。

 なお、電離層の生成は太陽からの放射エネルギーに起因していますので、日変化、季節変化、太陽黒点などの変化により、その状態は時事刻々変化しています。
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