Vol. No. 6 2001.12.22 upload
鉱石(クリスタル)ラジオってなあに?
 今では何気なく使っているラジオですが、これはいつ頃からこの世に登場したのでしょうか? ラジオの歴史について少し調べてみましたので、その結果を下表に示します。

年代 邦暦 内容
1864年   マクスウェルが方程式を立て、電磁波の存在を予見
1888年   ヘルツが電波の存在を実証
1891年   ブランリーが高周波の検波特性を発見
1894年   ロッジがコヒーラ検波器を発明
1895年   マルコーニが無線通信に成功
1906年   ピカールが鉱石検波器を発明
1916年   米国でブロン実験局が大統領選挙の模様を放送
1922年   米国KDKA局がラジオの本放送を開始
1922年 大正11年 東京朝日新聞社が無線電話実験放送を実施
1925年 大正14年 東京放送局(NHKの前身)がラジオの本放送を開始
1938年   米国でFM実験放送を開始
1957年 昭和32年 NHKがFM実験放送を開始

 上の表からお判りのように、ピカールが1906年に「鉱石検波器」というものを発明した事により、音を電波で伝えること(聞くこと)が可能になりました。いわゆる今のラジオの始まりです。今から100年近くも前の出来事なんですね。

 さて、この章の本題に入りますが、鉱石(クリスタル)ラジオって何でしょう。一言で言うとラジオの原点、即ち、この世に初めて登場したラジオが鉱石ラジオです。今では性能の良い様々なラジオが出来ていますが、今でも動作の基本原理は鉱石ラジオと同じです。ここから先は少し専門的になってしまいますが、我慢して聞いて下さい。

 皆さんも良くお聞きのAM放送を例に説明します。AM放送の電波を図で表すと図1のようになります。図の横軸は時間、縦軸は電波の強さを表しています。図の中には細かな波の振動と大まかな波の振動の2つがあるのがお判り頂けると思います。このうち、細かな波の振動は音を運ぶために使われるもので、専門用語では搬送波(キャリア)と言います。例えば、TBSラジオの周波数は954kHzですが、これが搬送波です。また、図の中の大まかな振動は人の声や音楽などに相当するものです。ですから、この大まかな振動数(周波数)は音の高低により一定ではありません。また、音の大きさにより波の振幅も変化します。この変化する度合いのことを変調と言います。音の大きさ(振幅)が変化(変調)しますので、専門用語では振幅変調(Amplitude Modulation、略してAM)と言います。放送局から送られてくるAM放送の電波は、おおむねこのような仕組みになっています。

図1 AM放送の電波

 さて、我々人間は幸か不幸か、図1で示したAM放送の電波を直接耳で聞くことはできません。もしも聞こえるとすると、騒音でとても眠れないでしょう(笑)。我々が聞くためには、図1で説明した2つの波の振動のうち、音の波の振動だけを取り出す必要があります。これを取り出すのに使われるのが検波器と呼ばれるものです。検波器を説明する前に、図2に最小限の鉱石ラジオの回路を示します。

図2 最小限の鉱石ラジオの回路

 アンテナで電波を捕らえることにより、ラジオには図3のようなプラスマイナスの両方向に動く電流が生じます。これは放送局が発射する電波と同じです。これを検波器という一方向にしか電流を流さない性質(整流作用)のものに通すと、図4のようにマイナス方向の部分がなくなります。これをクリスタルイヤホンで聞くと、クリスタルイヤホンが図4の細かな振動の波をカットしてくれて、赤で示した音の振動のみを耳で聞くことができます。これがラジオの原理です。

図3 アンテナに生じた電流 図4 検波後の電流

 鉱石ラジオを簡単に説明する為に、図2では最小限の鉱石ラジオの回路を示しましたが、実際にはこの回路だけでは特定の放送を聞くことはできません。アンテナには様々な種類の電波が入ってきますので、それらが混ざって聞こえてしまいます。それでは、特定の放送局の電波を聞くにはどうすれば良いでしょうか。それは別の章(ゲルマニウムラジオってなあに?)で説明することにします。

 さて、かつての「鉱石検波器」には、どのような種類のものがあったのでしょうか。良く知られているところでは、シリコン結晶や、方鉛鉱、黄鉄鋼、黄銅鋼、磁鉄鉱などの鉱石の結晶に針を接触させたものが利用されていました。図5に方鉛鉱を使った探り式鉱石検波器を示します。鉱石に接触させる針の力や場所を調整することで、検波器として動作します。図6にその他の鉱石の例を示します。ピカールは凄い発見をしたものだとつくづく思います。

 図5ご紹介した検波器は、学研から発売されている「大人の科学・磁界検知式鉱石ラジオ」の一部を撮影したものです。アンテナを除く本体部分を図7に示します。皆さんも挑戦されては如何でしょうか。鉱石ラジオとゲルマニウム・ラジオの両方の機能がありますので、ラジオの仕組みを勉強するには素晴らしい教材だと思います。

図5 探り式鉱石検波器の例(鉱石は方鉛鉱)

図6-1 磁鉄鉱 図6-2 黄銅鉱 図6-3 黄鉄鉱

図7 学研の大人の科学・磁界検知式鉱石ラジオ
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