2001年2月24日 作成
奥多摩 つづら岩 (登攀訓練)
1972(S47)年10月
■登攀ルート図
武蔵五日市駅〜(バス)〜千足バス停〜BC〜つづら岩〜BC〜千足バス停〜(バス)〜武蔵五日市駅
トラバースの訓練
 山岳会に入って7ヶ月が経過したある日、奥多摩の「つづら岩」という所に岩登りのトレーニングに行くことになった。この頃、会では月一回のペースで山行を行っていたが、これ以外にも、今回のような個人山行には良く行っていた。

 毎度のことだが、会社を終えてからの出発である。青梅線で終着駅の「武蔵五日市」まで行き、ここから路線バスに乗り換え、「千足」というバス停で降りた。既に外は真っ暗闇である。持参したヘッドランプを取り出し、夜道を1時間ほど登ったところでテント場に到着した。聞けば、ここより上部には水場はないとのことで、つづら岩にくる連中は、皆ここを拠点にしているようだ。暗闇の中、持参したツェルト(簡易テント)を張り、早々シュラフに潜り込んだ。

 翌朝、テントをたたみ、急な山道を30分ほど登ると山の稜線に出た。「つづら岩」はこの稜線上に堂々とそびえていた。一見したところ、高さ40m、幅は100mほどもある岩壁で、想像していた以上に大きく感じた。トレーニング場とはいえ、岩壁基部から見上げると、迫ってくるような威圧感を感じ、僕はなんとも不安な気持ちになってしまった。

 岩登りでは、登攀技術の高い者がトップをつとめる。当たり前だが、実践では上からザイルなど垂れ下がっているはずもなく、トップを行く者が過って墜落などすれば、それこそ命取りになりかねない。仮にトップが墜落したとすれば、登る途中に自分で作っていった最後の確保点(支点)を中心に、振り子のように落下することになる。もちろん、墜落の衝撃は凄まじい。人一人が10メートルも落下すれば、相当の加速度がついて、確保点には数トンもの力が急激に加わるのだ。これでは、岩に打ち込んだハーケンもたまったものではない。もちろん、こういう時は支点への急激な加重を避けるべく制動するのだが、何せ、瞬時の出来事なのでそう出来る保証はない。だから、トップで登る者には相応の登攀技術と精神力が要求される。それに比べ、二番手以降の者は上からザイルで確保されているので、トップほどの技術は要求されないし、緊張感も少ないのだ。

 特にトレーニング場などでは、安全性を優先して、岩壁上部よりザイルで確保しながら練習することが多い。でも、実践を意識した練習ではそんなことはしない。上から確保されていたのでは、緊張感もなく、練習にならないのだ。だから、訓練とはいえ、実践を意識した練習では命賭けなのである。

 この山行で、僕は初めてトップで登らせてもらった。二番手以降で登る時とは全然違っていた。とにかく緊張の連続だった。こんな初心者によくぞトップをやらせてくれたものだと、先輩の器の大きさに感心した。また、今回の山行では、「岩壁は足で登るもの」ということもつくづく痛感させられた。もちろん手も使って登る訳だが、手に頼りすぎていると、とたんに腕の筋肉がいうことをきかなくなり、にっちもさっちもいかなくなるのだ。足と腕の太さを比べれば、そのどちらに持続力があるかは一目瞭然だ。だから、岩登りではできるだけ足を使って登らなければならない。登攀ルートが長くなればなおさらである。こうして、一泊二日の登攀訓練は終わったのであった。
直登中
懸垂下降中
杉林の中のBC(ベースキャンプ)
つづら岩ってどこにあるの?
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