ラジオの基本的な仕組みは「鉱石ラジオってなあに?」の章で説明しました。まだ読まれていない方は、先にこの章をお読み下さることをお勧めします。本章ではゲルマニウム・ラジオについて説明します。
ゲルマニウム・ラジオとは、その名の通り、ゲルマニウム・ダイオードを使ったラジオです。鉱石ラジオではアンテナで捕らえた電波から音の波だけを取り出す(検波する)のに方鉛鉱などの鉱石の結晶を利用しています。ゲルマニウム・ラジオもこれら鉱石をもとにして作られたゲルマニウム・ダイオードというものを使っていますので、原理的には鉱石ラジオと同じです。鉱石検波器を使った鉱石ラジオでは、安定した特性を得ることが難しいので、その部分をゲルマニウム・ダイオードに置き換えたものがゲルマニウム・ラジオです。ゲルマニウム・ダイオードは、ゲルマン鉱(Germanite)を原料として作られます。図1にゲルマニウム・ラジオに良く使われているゲルマニウム・ダイオード(1N60)の外観を示します。
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図1 ゲルマニウム・ダイオード |
実用的なゲルマニウム・ラジオの最小限の回路を図2と図3に示します。これらはどちらもラジオとして機能します。アンテナで捕らえた電波には様々な種類の電波が混在しています。これを検波器で検波しただけでは混信してしまって、特定の放送だけを聞くことはできません。特定の放送だけを取り出す為に使われるのがコイルとコンデンサです。
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図2 ゲルマニウム・ラジオの回路例
(C可変型) |
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図3 ゲルマニウム・ラジオの回路例
(L可変型) |
アンテナで捕らえた電波は電流となって回路内を流れますが、コンデンサとコイルの大きさを変化させることによって、回路に流れやすい電流の振動数を作ります。これを「共振」と言いますが、回路がある振動数に共振すると、その振動数の電流だけが強く流れ、それを検波器で検波すると、その放送局だけを耳で聞くことができるようになります。この一連の動作を同調と言います。
少し専門的になってしまいますが、コンデンサに蓄えられる電気の量を静電容量と言い、一般にはCという記号で表します。(単位はファラドです。)また、コイルの持つ電気的な抵抗の大きさをインダクタンスと言い、Lという記号で表します。(単位はヘンリーです。)そして、これら2つを組み合わせて作った回路は共振という現象を起こすことがわかっています。共振する振動数のことを共振周波数fといい、次の式で表されます。
前述の図2の回路はCの大きさを、図3の回路はLの大きさをそれぞれ変えることで、いずれも回路内に共振を発生させ、目的の周波数に同調できるようになっています。ようするに、同調するには、Cの大きさを変えても良いし、Lの大きさを変えてもよいし、また、その両方を変えても良いということになります。
難しい話はこの位にして、実際のゲルマニウム・ラジオはどんな形をしているのでしょうか。図4に市販されているゲルマニウム・ラジオの例を示します。これは東京の秋葉原で980円で購入してきたものです。コイル内に納まっている磁性体(図4−2の下の黒い棒状のもの)を移動させ、結果的にLの大きさを変えることで同調させる方式になっています。(図3で示した方式です。)
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図4−2 ゲルマニウム・ラジオの例
上がコイル本体、下が磁性体 |
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図4−1 ゲルマニウム・ラジオの例 |
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■どんなダイオードでもラジオの検波器として使えるの?
答えはノーです。現在の家電製品やパソコンなどにはシリコン・ダイオードが使われています。シリコン・ダイオードもゲルマニウム・ダイオードも同じダイオードの仲間ですので、正方向の電流しか通さない整流作用があることに変わりはありません。では、なぜ、シリコン・ダイオードがラジオの検波器として適さないのでしょうか。それはそれぞれのダイオードが持つ電位障壁という特性にあります。
ダイオードに正方向に電圧を加えると、直ぐに電流が流れる訳ではありません。流れ始めるまでに、少しの電圧が必要になります。ゲルマニウム・ダイオードの場合は0.1〜0.2Vで電流が流れ始めますが、シリコン・ダイオードの場合は、0.6V位にならないと電流が流れません。これは接合面に電位障壁という電気の壁があるためです。その値のことをしきい値といいます。英語ではThreshold(スレッショルド)といいます。
ゲルマニウム・ラジオのように小さな電流を検知する回路では、このシリコン・ダイオードの特性では電流がほとんど流れないため、検波の機能を果たさず、結果として何も聞こえないということになります。但し、まったく利用できないかというと、そうでもなく、電波の強い場所や様々な工夫をすれば、一応、検波器として動作するものもあります。
試しに、身近な所に転がっていたシリコン・ダイオード(電源のスイッチング用、品種不明)と、ゲルマニウム・ダイオード(1N60)の検波特性を比較してみました。AM放送波に近い信号を作り、この信号をそれぞれのダイオードに加えて、ダイオードの出力側にどのような波形が出てくるのかを調べてみました。
ダイオードに加えた信号の電圧波形を図5−1に示します。図ではわかりませんが、真っ黒のエリアの中には、954kHzの周波数の搬送波が存在しています。また、図中の波の大きなうねりの周波数は1kHzであり、これは人の声に相当するものです。この1kHzの信号で80%の深さにて搬送波を振幅(AM)変調しています。
さて、ダイオードの出力側にはどのような信号が現れるでしょうか。図5−2にシリコン・ダイオードの出力電圧波形を示します。マイナス方向の信号はほとんどカットされてプラス方向の信号のみが出力されていますので、一応、検波はされています。但し、搬送波(キャリア)の周波数成分もそのままダイオードを通過していること、および、少しですが、マイナス方向の信号も通過してしまっています。(専門的には逆方向リーク電流と言います。)
一方、ゲルマニウム・ダイオードの出力電圧波形を図5−3に示します。0Vからプラス方向の音声信号のみがきれいに出力されているのがわかります。また、ちょっと自信はありませんが、954kHzの搬送波もカットされているようです。このように、同じダイオードであっても、ラジオの検波器として適しているものとそうでないものが存在することがお判り頂けたかと思います。なお、ショットキーバリア・ダイオードなどもラジオの検波器として使用できるようです。
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図5−1 ダイオードへの入力電圧波形
搬送波周波数: 954kHz
変調: 1kHz 80% AM |
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図5−2 シリコン・ダイオードの
出力電圧波形 |
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図5−3 ゲルマニウム・ダイオードの
出力電圧波形 |
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