Vol. No. 13 2002.02.23 upload
伝書鳩はどうして自分の家に戻れるの?
 私達の住む地球には「地磁気」というものがあります。図13-1に示すように、北極にはS磁極、南極にはN磁極があり、地球を取り巻くように磁気が流れています。この地磁気の性質を利用して磁気コンパスなどが利用されていることはご承知の通りです。

 最近ではすっかり聞かれなくなってしまいましたが、今のように便利な通信手段がない時代、「伝書鳩」が貴重な情報伝達の手段として使われていました。例えば、新聞記者が地方に取材に行く時、この伝書鳩を連れて行き、小さな紙片に伝えたい内容を書いて、鳩の足につけられた小さな筒にこの紙片を入れて空に放ちます。すると、鳩は自分の巣(家)に一直線に戻ります。こうして紙片に書かれた情報が素早く伝達されていました。でも、どうして鳩は迷うことなく自分の巣(家)に帰れるのでしょうか?

図13-1 地球と地磁気

 この疑問に対して、アメリカ・コーネル大学のウィリアム・キートン博士はある実験を行いました。博士は鳩は次の3つの航行システムを持っているのではないかと考えました。

 1)極方向に傾いた太陽の光を利用している。
 2)地図感覚(地上の風景や目印を記憶する)を利用している。
 3)磁気的な方向感覚(いわゆる磁気コンパス)を利用している。

 そこで博士は、まず上記の1)と2)の航行システムを鳩が使えないように、鳩に半透明のコンタクトレンズを付けることを考案しました。こうすれば、極方向に傾いた太陽の光や風景は見ることができません。この状態で遠く離れた場所から鳩を空に放って、無事に巣(家)に帰ることができるのであれば、鳩は3)の能力を有している可能性があると考えたのです。

 コンタクトレンズを付けた鳩と、何もつけない鳩の2つの群れを、巣(家)から100マイル離れた場所から同時に放ちました。そして、何も付けない鳩の群れは一直線に自分の巣(家)に帰ってきました。コンタクトレンズを付けた鳩の群は少し回り道をして湖の上を経由して帰ってきました。その様子を図13-2に示します。

 そこで、次にコンタクトレンズを付けた鳩の頭に地球の地磁気の強さと同じ強さの磁石を付けて同じ実験をしました。そして、磁石付きコンタクトレンズが外れてしまった鳩だけが巣(家)に帰ってきましたが、その他の鳩はついぞ帰って来ませんでした。この実験の結果は、鳩が地磁気を感じてそれを航行システムとして利用していることを証明するものです。

図13-2 鳩の飛行コース

 その後、別の学者の研究で、鳩の脳内には磁性を帯びた結晶構造があることが発見されました。但し、それが脳内でどのように繋がって情報伝達が行われているのかは今もって解明されていません。いずれにしても、この脳内の磁性結晶が地磁気の磁場を感じ取っていることは確かなようです。

 以上の話は何も鳩に限らず、遠くシベリアから飛来する渡り鳥などにも言えることで、彼らは我々人間にはない(あるいは退化したのかもしれませんが)方位感知能力(例えば磁気コンパス)を持っていることは間違いがないことのようです。

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