アンティーク・コレクション
Part No. 11
2003.01.11 upload
真空管式通信型受信機
TRIO 9R-59D
■9R−59Dの思い出

 昭和40年代にアマチュア無線をやっていた方なら、おそらくどなたでもこの受信機はご存じでしょう。昭和41年にトリオ(現:ケンウッド)から発売されたMT管を使用した真空管式通信型受信機です。高周波1段増幅と中間周波2段増幅を採用し、メカニカルフィルターを搭載することで、当時、徐々に始まりつつあったSSB時代への対応を計った受信機です。完成品とキット品の2種類が売られていたと記憶しています。価格は2万円〜3万円程度で、これは当時の高卒初任給と同じ位の金額で、高校生でも一生懸命アルバイトで貯めれば、手の届く価格でした。当時としては、極めて斬新なデザインで、同じシリーズの送信機と共に、自分の机の上を飾ることに憧れたものです。

 僕がこの受信機に巡り会ったのは、確か昭和42年(1967年)頃のこと。当時、僕はまだ中学2年生でした。その頃、2才年上の兄がアマチュア無線の免許を取得し、この受信機を購入したのです。僕はまだアマチュア無線の免許を持っていませんでしたので、兄の許しを得て、この受信機で短波帯の無線通信を良く聞いていました。

 特に、海外からのアマチュア無線の送信電波を受信し、その受信状態などを送信者にハガキで送り、先方からお礼のQSLカードをもらうのが楽しみでした。このような行為をハムの世界ではSWL(Short Wave Listener)と言います。このSWLを2年近く楽しみながら、アマチュア無線の交信の仕方や免許を取る為の勉強をしていました。そして、高校に進学した1年生の夏に念願のアマチュア無線の免許を取得し、晴れてオンエアーすることが出来ました。その後、高校生活の3年間は、アマチュア無線にどっぷりと浸かってしまい、50MHz帯で1000局の交信を達成したり、Eスポ(電離層反射)を利用してオーストラリアと交信したりしていました。

 そんなに熱を入れていたアマチュア無線ですが、社会人になってから、急に熱が冷めてしまい、それから現在に至るまで、ほとんどオンエアーすることは無くなってしまいました。

 当時使用していたこの受信機が、その後どうなってしまったのか、まったく記憶していませんが、恐らく兄が友人にでも譲ったんだろうと思います。ということで、ここでご紹介する思い出深い一品は、最近になってオークションで入手したもので、製造から既に36年程経過していますが、今でも現役で動作しています。

正面
※左側は専用スピーカのModel SP-5D
内部上面
内部背面
ブロック・ダイヤグラム

■メカニカル・フィルタ(455kHz, 東光製)

 9R−59Dは中間周波増幅時における近接信号の分離選択にメカニカル・フィルタが採用されています。これは従来より行われていたLCによるIFT動作とは異なり、入力電気信号をいったん中間周波数である455kHzの機械共振回路に加え、フィルタとして動作させるものです。この共振体の周波数特性は矩形型に近い、いわゆるフィルタとして理想的な特性を持っており、この圧電気現象を利用して機械振動から電気信号へ変換する機構となっています。

メカニカルフィルタの構造
中間周波増幅回路
※6BA6x2本による中間周波増幅と、近接信号分離選択用の2段のメカニカル・フィルタ

■主な仕様

型式 9R-59D
製造者 TRIO(現:Kenwood)
受信周波数 550-1600 kHz
1.6-4.8 MHz
4.8-14.5 MHz
10.5-30 MHz
感度 A, B, Cバンド 6dB以下(S/N 10dBにて)
Dバンド 13MHz 18dB以下(S/N 10dBにて)
       28MHz 10dB以下(S/N 10dBにて)
選択度 -50dB以上(±5kHz離調時)
出力 1.5W
電源 100V または117V 50〜60Hz
消費電力 45W
使用真空管 6BA6 - 高周波増幅、6BE6 - 混合、6AQ8 - 局部発振
6BA6 - 中間周波x2、1/2 6AQ8 - BFO
1/2 6AQ8 - 低周波増幅、6AQ5 - 電力増幅
VR-150MT - 定電圧放電管(オプション)
サイズ 幅 380 cm x 高さ 180 cm x 奥行 251 (mm)
重量 8.5kg
定価 29,800円(当時)
発売開始 昭和41年(1966年)
戻る